【実録】スタートアップのCTOをやってみたけど、1年もたずに辞めた理由

CTO

スタートアップのCTOをやってみた。

正直に言うと、かなりワクワクしていた。

エンジニアとしてのキャリアの中でも、ひとつの到達点だと思っていたし、「ここで一気にステップアップできるかもしれない」と期待していた。

でも、結果としては——

1年もたずに辞めることになった。

その理由は、あとから振り返るといくつかはっきりしている。

もちろん、軽い気持ちで辞めたわけではない。

むしろ、「なんとか続けられないか」と何度も考えたし、悩んだ。

それでも最終的に辞めるという選択をしたのは、

シンプルに「このまま続けるのは違う」と感じたからだ。

この記事では、

なぜスタートアップのCTOに挑戦しようと思ったのか、

実際に入ってみて何が起きたのか、

そしてなぜ1年もたずに辞めることになったのかを、できるだけリアルに書いていく。

これからCTOを目指す人や、スタートアップへの転職を考えている人にとって、

少しでも参考になれば嬉しい。

スタートアップのCTOに挑戦しようと思った理由

それまでの自分は、ヤフー・楽天・AWSといった大きな会社で働いてきた。
大規模なシステムや最新の技術に触れることができて、純粋にエンジニアとしては面白かったし、得るものも多かったと思う。

ただ、その一方でどうしても拭えなかったのが、「自分は大きな歯車の一部なんじゃないか」という感覚だった。

もちろん、それが悪いわけではない。
大きな組織の中でしかできないこともあるし、そこに価値があるのも分かっている。

それでも、自分で意思決定をして、その結果を現場まで落とし込み、自分の手で動かしていく。
そういう役割の方が、もっと面白いんじゃないかと思うようになった。

規模は小さくてもいい。
むしろ、小さいからこそ自分の影響力がダイレクトに出る環境に興味が湧いていった。

もうひとつ理由がある。
エンジニアとしてキャリアを積む中で、「いつかCTOをやってみたい」という気持ちが、ずっと頭の片隅にあった。

これまでの経験や知識を踏まえれば、ある程度はやれるんじゃないか。
そんな自負も、正直あったと思う。

そういった背景から、スタートアップでCTOに挑戦することを決めた。


入社前後で感じた違和感(今思えばサインだった)

入社前後で、「あれ?」と思うことはいくつかあった。

まず、最終面接のとき。
社長から突然「いまここでサインしてくれ」と契約書を差し出された。

もちろんその場ではサインせずに後で人事やエージェントに状況を説明してちゃんと納得してからサインした。

でも今振り返ると、この時点で違和感に気づくべきだったと思う。

入社してからも、その違和感はすぐに現実のものになっていく。

まず驚いたのが、入社直後に「占い」をやらされたことだった。
どうやら社長が組織づくりの判断に使っているらしい。

さらに、新入社員が順番に呼ばれる社長との朝食会でも、話題のほとんどが占いの話。
正直、このあたりで「ちょっとやばい会社に来てしまったかもしれない」と感じ始めていた。

決定的だったのは、最初の1on1だった。
人間関係を築こうと思い、会社のバリューなどをテーマに雑談ベースで話していたところ、突然「もっと業務の話をしろ」と強い口調で言われた。

コミュニケーションの取り方に大きなズレを感じた瞬間だった。

さらに追い打ちをかけるように、入社から1週間ほど経った頃、社長が全社向けのチャットで「社内恋愛禁止」というメッセージを突然投稿した。
正直、意図も背景も分からず、ただただ困惑したのを覚えている。

そして1ヶ月後には、社員が1人退職した。
理由は、社長による男尊女卑とも取れる発言だった。

さらにその2ヶ月後、つまり入社から3ヶ月の時点で、同じタイミングで入社した9人のうち6人が退職。
ここで、「この会社は普通ではない」と確信した。

違和感は、気のせいではなかった。


CTOとして働いてみて感じたリアル(理想と現実)

エンジニア組織

入社してすぐ、まず取り組んだのは開発チームの状況把握だった。
メンバーとの1on1を始め、コードやドキュメントにも目を通していった。

そこで最初に驚いたのが、チーム構成だった。

当時、エンジニアは十数人。
その規模にもかかわらず、すでに「開発」と「SRE」が分離されていた(開発10人、SRE3人)。

さらに内訳を見ると、社員は開発3人(中途のマネージャー1人+新卒2人)とSRE1人のみ。
それ以外はほぼ業務委託だった。

体制としてかなりいびつだと感じたが、それ以上に問題だったのは「機能していないこと」だった。

開発マネージャーは午前中は副業のため不在。
SREのエンジニアは社長とのコミュニケーションでメンタルを崩し、オフィスに入れず、出社してもロビーで作業している状態。

さらに、開発チームとSREチームはお互いに強い言葉で批判し合っており、関係性は完全に壊れていた。

「この規模でなぜ開発とSREを分離しているのか」
「なぜここまでチームの関係性が悪化しているのか」

疑問ばかりが浮かんだ。

ただ、ひとつだけ共通していたことがある。
それは、メンバー全員が社長への不満を口にしていたことだった。

話を聞いていくと、せっかく開発したものでも、社長の意向で突然仕様が変わったり、開発がストップしたりすることが繰り返されていたらしい。

一方で、ドキュメントを調べていくと、しっかりとした設計資料や計画もいくつか見つかった。

不思議に思ってさらに調べてみると、どうやら前任のCTOが存在していたようだった。
しかも、自分が就任するまでにCTOはすでに何人も入れ替わっており、自分は4代目か5代目にあたるらしい。

ここでようやく、ある程度の構造が見えた気がした。

なるほど、そういうことか。

採用

社長から最初に強く求められたのは「採用」だった。

3年後に社員を200人規模にしたい。
現在はまだ数十人のフェーズにもかかわらず、まずは今年30人採用してほしいという話だった。

さらに、エンジニアについては将来的に100人規模にしたいという。

最初は、「やはり経営者の考えるスケールは違うな」と感じた。
ただ、現実的な採用スピードや市場状況を踏まえると、すぐに違和感が出てきた。

「そんなに短期間で採用は進まない」という話をすると、今度は「来年は新卒を大量採用したい」と言い出した。

しかし、新卒エンジニアは基本的に教育前提であり、即戦力にはなりにくい。
当時の組織状況を考えると、育成にリソースを割く余裕があるとは思えなかった。

さらに気になったのは、資金面だった。

人件費や諸経費を含めて1人あたり年間1,000万円と仮定すると、10人採用するだけでも年間1億円規模のコストになる。
その規模の投資を継続できるだけの資金調達ができているのか、明確な説明はなかった。

その一方で、採用計画は週次にブレイクダウンされ、毎週進捗を報告するよう求められた。

採用の現実と、求められているスピードの間に、大きなギャップを感じていた。

技術戦略・プロダクト戦略

プロダクトや技術面について、社長から最初に言われたのは「現在のシステムを作り直してほしい」ということだった。

話を聞くと、既存のシステムは5年以上運用されており、すでに顧客もいて、一定のデータも蓄積されている。

それを「3ヶ月でリプレースしてほしい」と言われた。

正直に言って、現実的ではないと感じた。

並行して、プロダクトの開発ロードマップを引く必要もあったため、まずは事業計画を確認しようとした。

しかし、そこでさらに大きな問題に気づくことになる。

誰も事業計画を書いていなかった。

そういえば最初の1on1で社長がキレたのも事業計画の話になったときだった。そういうことか・・・。

この会社は、良くも悪くも社長の意思決定に強く依存していた。

その判断の軸も一貫しているとは言い難く、結果としてプロダクトの方向性や開発計画が頻繁に変わる状況になっていた。

だからこそ、現場のエンジニアが疲弊し、組織としても安定しなかったのだと思う。

一方で、事業としては一定の成果が出ていたのも事実だった。
ただ、それが再現性のある戦略に基づいたものなのかというと、正直判断は難しいと感じていた。

この時点で、自分の中ではある程度の結論が見え始めていた。

この環境で、自分が価値を出し続けるのは難しい。
そして、それ以上に、このままここに居続けることが、自分にとってプラスになるイメージが持てなかった。

もちろん、簡単に「辞める」という判断をしたわけではない。
CTOという役割に挑戦した以上、できることはやり切りたいという気持ちもあった。

ただ、組織・意思決定・戦略のいずれもが、自分のコントロールできる範囲を大きく超えていた。

この状況を変えられるのか。
それとも、自分が変わるべきなのか。

そんなことを考えながら、次の一手を探り始めていた。


転職を考えるきっかけになった出来事

そんな状況の中でも、事業自体は伸びており、奇跡的に黒字化し始めていた。
それを受けて、会社としては上場準備に入ることになる。

上場に向けて経営体制を強化する必要があるという話になり、執行役員体制の導入が検討された。

このタイミングで、自分たちも組織の状況を改善できるチャンスだと考えた。

具体的には、役員(社長)と、執行役員(営業部長・総務部長・自分)を分離し、
現場側の意思決定をある程度自律的に回せる体制にするという提案だった。

この案は、自分ひとりで考えたものではなく、部長陣で週末に集まり、議論を重ねてまとめたものだった。
最終的に資料は自分が取りまとめ、社長に説明した。

手応えは、正直あまり良くなかった。

その後、社長は数週間ほとんど会社に来なくなった。

こちらとしては、提案内容を踏まえて何か考えているのだろうと捉え、状況を見守っていた。

しかし数週間後、状況は予想とは全く違う方向に進む。

社長は新たに営業人材を連れてきて、その人物を「経営戦略責任者」として据え、新しい体制を作ると言い出した。

自分たちが提案した内容についての言及は、一切なかった。

さらに追い打ちをかけるように、上場に向けた主幹事から「このままだと利益が足りない」という指摘が入る。

それを受けて社長は、「短期的に利益率を上げるためにエンジニアを減らす」という方針を示した。

ここで、自分の中では完全に線が引かれた。

この環境で、自分がやるべきことはもうない。
ここに居続けても、価値を出すことも、成長することも難しい。

この出来事をきっかけに、部長陣はそれぞれ退職を決断することになる。
もちろん理由はそれぞれにあったと思うが、少なくとも方向性のズレは決定的だった。

自分も、このタイミングで本格的に転職活動を始めることにした。

ただ、いきなり動くのではなく、まずはエージェントに相談して自分の市場価値や選択肢を整理するところから始めた。
実際に話を聞いてみるだけでも、かなり視界がクリアになるのでおすすめ。
自分が最初に使ったのはGeeklyで、IT系の求人も多くて、エンジニア職の話が通じやすかった。
Geeklyで求人を見てみる(無料)


すぐに辞めなかった理由と葛藤

ここまでの状況でも、すぐに辞めるという判断にはならなかった。

一番大きかったのは、現場のエンジニアの存在だった。

自分が社長との間に入ることで、開発ロードマップはなんとか機能していたし、
それまで頻繁に起きていた強いコミュニケーションも、ある程度は抑えられていた。

この状態で自分が抜けたら、また元に戻ってしまう。
そう思うと、簡単に離れることはできなかった。

一方で、「次のCTOを採用すればいい」という話でもないと感じていた。

なぜなら、この状況のままでは、次に来る人も同じように苦しむ可能性が高い。
それは単に新しい犠牲者を増やすだけだと思ったからだ。

では、どうすればいいのか。

自分なりに考えた結果、外部の力を借りるという選択をした。

ちょうどその頃、組織として不足していたPdMやデザイン領域を補うため、
業務委託で関わってもらうスペシャリストと話を進めていた。

その人は、自身で会社を経営しながらプロデューサー的な役割を担っており、
複数の企業で経営陣と連携してプロジェクトを推進してきた実績があった。

現状の課題を正直に共有し、社長とエンジニアの間をつなぐ役割を担ってもらえないか相談したところ、快く引き受けてくれた。

もちろん、エンジニアチームと社長にも説明を行い、合意を得た上で体制を整えていった。

そこからは、そのパートナーと二人三脚で業務を進めながら、
自分がフェードアウトしても組織が回る状態を少しずつ作っていった。


退職までの流れと次の転職

パートナーと体制を作りながら、並行して転職活動も始めていた。

まずは情報収集の意味も含めて、スカウト型のサービスにも登録していた。
リクルートダイレクトスカウトは、登録しておくだけでエージェントや企業から連絡が来るので、自分の市場価値を把握するのにちょうどよかった。
リクルートダイレクトスカウトに登録してみる

並行して、これまで付き合いのあったエージェントに連絡を取りつつ、
CTOになってから知り合ったVC(ベンチャーキャピタル)にも、密かに相談をしていた。

VCはエージェントとは違い、自社が出資している企業の紹介が中心になる。
そのため、自然とCTOポジションの話が多くなっていった。

一方で、エージェント経由ではエンジニアリングマネージャー(EM)としてのポジションも複数あった。

その中で、外資系の企業も選択肢に入れていたため、エンワールドのような外資に強いエージェントにも相談していた。
外資系の場合、求人の見方や面接の進め方も日系とは違うので、そのあたりの情報をもらえたのはかなり参考になった。
エンワールドで外資系求人を見てみる

この時点で自分の中の選択肢は大きく2つだった。

もう一度CTOに挑戦するか。
それとも、いったんEMに戻るか。

CTOとしての採用は、スキルや経験以上に「経営者との相性」に強く依存する。
そう考えて、何人かの経営者とも実際に話をした。

ただ、話をすればするほど感じたことがある。

良く言えば、理想が明確で、大きなビジョンを描ける人たち。
一方で、現実とのバランスが取りきれていないと感じる場面もあった。

そして、その姿が、どうしても前職の社長と重なって見えてしまった。

この頃には、心身ともにかなり消耗していたと思う。

だからこそ、自分にとって何が最優先なのかを改めて考えた。

その結果、一度CTOという役割から離れ、
エンジニアリングマネージャーとして働く道を選ぶことにした。


スタートアップのCTOで失敗しないために考えるべきこと

スタートアップのCTOという役割は、とても魅力的だ。
自分の意思決定がそのままプロダクトや組織に反映されるし、やりがいも大きい。

ただ、その分だけリスクも大きい。

実際にやってみて感じた、「失敗しないために考えるべきこと」をまとめておく。

1. 経営者との価値観・意思決定スタイルは合っているか

CTOという役割は、経営者と非常に近い距離で仕事をする。
そのため、スキルや経験以上に「相性」が重要になる。

特に見るべきなのは、意思決定の仕方や判断の軸。
そこに納得感が持てない場合、後から大きなズレになる可能性が高い。

2. 期待されている役割を具体的にすり合わせているか

「CTO」といっても、その役割は会社によって大きく異なる。

技術戦略を担うのか、組織づくりがメインなのか、
あるいは単なる開発責任者としての役割なのか。

肩書きではなく、「何を期待されているのか」を具体的に確認しておかないと、
入社後にミスマッチが起きやすい。

3. 組織の現状を正しく把握できているか

採用面接や短時間のやり取りだけでは、組織の実態は見えにくい。

エンジニアの構成、社員と業務委託のバランス、チーム間の関係性、
そして実際に開発がどのように進んでいるのか。

可能な限り深くヒアリングしないと、入社後にギャップに苦しむことになる。

4. 事業計画とプロダクト戦略が言語化されているか

技術戦略は、事業計画の上に成り立つものだ。

そのため、事業の方向性や収益モデルが明確でない状態では、
いくら技術的に正しい判断をしても、組織としては機能しない。

ロードマップを引く前に、「何を目指している会社なのか」が整理されているかは必ず確認したい。

5. 採用・組織拡大の計画が現実的か

スタートアップでは「短期間で急拡大」という話がよく出てくる。

ただし、採用には時間もコストもかかる。
特にエンジニア採用は、想像以上に難易度が高い。

採用人数だけでなく、教育体制や資金計画まで含めて、
現実的に実行可能なプランになっているかを見極める必要がある。

6. 「自分が変えられる範囲」と「変えられない構造」を見極める

入社すれば何でも変えられる、というわけではない。

特に、経営者の意思決定スタイルや会社の構造的な問題は、
CTO一人で短期間に変えられるものではない。

その環境の中で自分が価値を出せるのか。
それとも構造的に難しいのか。

この見極めができないと、無理をし続けることになる。

スタートアップのCTOは、間違いなくチャレンジングで魅力的なポジションだ。

ただし、その難しさは想像以上に「技術以外の部分」にある。

だからこそ、入る前にどれだけ現実を見られるかが、その後を大きく左右すると思う。


まとめ|CTOという役割は魅力的だけど、合う・合わないがある

スタートアップのCTOという役割は、とても魅力的だ。

自分の意思決定がダイレクトに組織やプロダクトに反映されるし、
うまくいけば、短期間で大きな成長やインパクトを生み出すこともできる。

実際、自分もそういった可能性に惹かれて挑戦した。

ただ、今回の経験を通して強く感じたのは、
この役割は「スキルや経験」だけでは成立しないということだった。

経営者との相性、意思決定のスタイル、組織の状態、事業のフェーズ。
それらがうまく噛み合って初めて、CTOとして価値を発揮できる。

どれかひとつでも大きくズレていると、
いくら頑張っても状況を変えることは難しい。

そしてもうひとつ思ったのは、
「合わない環境から離れる」というのも、ひとつの正しい判断だということだ。

続けることだけが正解ではない。
自分が価値を出せる場所で戦うことの方が、結果的に周りにとってもプラスになる。

今回の経験は決して楽なものではなかったが、
自分にとっては大きな学びになったと思っている。

もしこれからスタートアップでCTOに挑戦しようとしている人がいるなら、
この記事が少しでも判断材料になれば嬉しい。